教員免許状取得への道のり(小学校編)

笑顔の小学生男女と女性教師

小学校の先生は、国語、算数などの主要教科から、音楽、体育などに至るまで、全教科を教える力が求められます。加えて、1~6年生まで、全学年を教える力も求められます。それだけに、教員免許状取得への道のりも容易ではありません。

それでは、小学校教員免許状取得までの道のりを見て行きましょう。

まず、最低限必要なこと。それは、「高等学校を卒業していること」です。中卒では原則として教師になれません。ただし、大検(大学入学資格検定)に合格していれば大丈夫です。

高校卒業(大検合格)後の道のりは、大きく三つに分かれます。

①小学校教員養成課程のある大学の学部・学科に進学
②上記①以外の大学に進学後、他大学へ編入or通信教育課程などで必要な単位を取得
③小学校教員資格認定試験に合格

小学校の先生になりたい人の多くは、①を選択します。小学校一種免許状が取得できる大学の一覧は、以下のとおりです。

小学校教員一種免許状が取得できる大学

小学校教員二種免許状が取得できる大学

小学校教員専修免許状が取得できる大学

(平成21年4月1日現在)

ご覧いただいてわかるように、すべての都道府県に最低一つは、小学校になるための大学があります。ただし、一県に一大学のみ、という所も少なくありません。

小学校の教師になる一番の近道は、やはりこれらの大学に進学することです。②、③の道のりに比べても確実です。いわば、小学校教師になるための「王道」といえます。

ただ、これらの大学に行くと、民間企業への就職は厳しくなります。もちろん、うまく転進する人もいますが、就職率は高くありません。その意味では、①の道を歩むのなら「自分は絶対に小学校の教師になる!」と、覚悟を固めておいたほうがよいでしょう。

次に、国立と私立の比較で言うと、どちらが免許状を取りやすい、取りにくいというのはありません。どちらも、真面目に学んでいけば、ほぼ間違いなく免許状を取れます。

気になるのは、その先の採用試験です。「国立のほうが有利」なんて言う人がいますが、本当にそうなのでしょうか。

結論から言うと、断じてそんなことはありません。大学名や国公私立の差別はなく、教員採用試験の選考は公平平等に、「学歴不問」の「実力勝負」で行われています。

ただ、教員採用試験には一般教養の筆記試験があり、ここで求められる能力は、センター試験で求められる能力と似ています。そのため、センター試験の勉強を積んできた国立大学の学生に、やや有利に働く側面はあるのかもしれません。

小学校の教師になる!という決意を固めきれていない人には、②の選択肢があります。ただし、この道を通って小学校教員の免許を取るのは、なかなか大変です。大学4年間の他に、数年は必要だと考えたほうがよいでしょう。

例えば、小学校免許状を取らないまま社会人になった人が、「やっぱり先生になりたい!」と思った時なども、②の道のりと同様、通信教育課程などを使って免許状を取ることができます。

③の小学校教員資格認定試験(文部科学省)は、①②とは全く異なる、いわば「奥の手」です。チャンスは年1回。1次試験が8月末、2次試験が10月下旬、「指導の実践に関する事項に係る試験」が11月中旬に行われ、十分な能力が備わっていると認められた人にのみ、小学校免許状が授与されます。ただし、授与されるのは「二種免許状」です。

この試験、合格するのは容易じゃありません。合格率は、毎年1割以下。そうですよね。これで簡単に取れるようなら、教員養成課程の大学なんて、誰も行かなくなってしまいます。

いずれにせよ、小学校教員免許状取得への道のりは、そう簡単ではありません。教師は専門職ですから、当然といえば当然です。強い決意を持って臨んでください。

教員免許状取得への道のり(中学・高校編)

高校生イメージ

小学校の教員免許状が、専修、一種、二種の種別ごとに一種類なのに対し、中学校と高校の教員免許状は、教科別に分かれています。当たり前ですが、国語を教えるためには国語の免許状が、数学を教えるためには数学の免許状が、必要になってきます。

教科の種類をまとめたのが表1です。

表1 中学校・高校の教員免許状の種類
中学校 高校
国語/数学/理科/社会/保健体育/音楽/美術/家庭/技術/職業/職業指導/職業実習/宗教/外国語(英語、中国語、フランス語、ドイツ語、その他の言語に分かれる) 国語/数学/理科/社会/保健体育/音楽/美術/家庭/技術/職業指導/職業実習/宗教/外国語(英語、中国語、フランス語、ドイツ語、その他の言語に分かれる)/看護/情報/農業/商業/水産/福祉/商船

 中学校を順番に見ていくと「技術」までは分かるとして、「職業」以降は「?」と思った人もいるでしょう。外国語も「英語」以外は、「中学校で教えることなんてあるの?」と、疑問に思う人がいるはずです。

たしかに、公立の中学校にこれらの教科はありません。ただ、特別支援学校には「職業」などの教科があり、私立の宗教系の中学校や高校には「宗教」の授業があります。

また、大学の中には英語以外の外国語で受験できる所もあるため、私立の中高一貫校の中には、希望者に中国語やフランス語を教えている学校もあります。

こうして見ると、中学校・高校の教員免許状は種類が豊富で、広く門戸が開かれているように思えます。ただ、「職業」や「宗教」、英語以外の外国語などは、免許状を取得できる大学が限られていますし、採用試験も狭き門です。もし、「ついでに取っておこう」程度に考えている人がいたら、安易な考えは持たないほうがよいでしょう。

さて、上記を踏まえて、中学校・高校の教員免許状取得までの道のりを具体的に見ていきましょう。

まず、最低限必要なのは、「高等学校を卒業していること」です。この点は、小学校と同じで、中卒では原則として教師になれません。ただし、大検(大学入学資格検定)に合格していれば大丈夫です。

高校卒業(大検合格)後の道のりは、大きく二つに分かれます。

①中学校・高校各教科の免許状が取得できる大学の学部・学科に進学
②上記①以外の大学に進学後、他大学へ編入or通信教育課程などで必要な単位を取得

「中学校か高校の先生になりたい!」という人の多くは、①を選択しています。中学校・高校の免許状が取得できる大学は、以下のとおりです。

中学校・高校の教員免許状が取得できる大学

(平成21年4月1日現在)

一種免許状が取れる大学数は、国語が331、数学が488、理科が795、社会が1320などとなっています。小学校の一種免許状を取れる大学数が219ですから、中学校のほうが多いことが分かります。つまり、免許を取れる大学数だけで見れば、中学校の免許状は、小学校よりも「取りやすい」と言うことができます。

一方で、「取りやすい」=「持っている人が多い」ことでもあります。それはすなわち、採用試験のライバルが多いということです。でも、1000以上の大学で免許が取れる社会科は、採用試験の倍率も高い傾向があります。

なお、同一教科であれば、中学校と高校の両免許状を取るのは、さほど難しくありません。実際、多くの大学生がそのようにして、採用試験の段階で中高どちらを受けるかを決めているようです。

①以外の大学へ進んだ後、突然「やっぱり教師になりたい!」と思い立った人には、②の道のりがあります。その場合は、大学の教務課などに相談して、どうすれば免許状取得に必要な単位がそろうか、確認をするようにしましょう。

ちなみに、小学校にある「教員資格認定試験」は、中学校には存在しません。また、高校では一部の教科で行われていましたが、2004年度に休止されています。

すなわち、中学校・高校の教師になるには、大学へ通って、地道に単位を取得していくしかありません。気合を入れて、がんばってください!

教員免許状取得への道のり(特別支援学校編)

ドッヂボールをする小学生男子と女性教師

「特別支援学校」という名称に、馴染みのない方もいるでしょう。以前は、「特殊学校」と呼ばれ、盲学校、ろう学校、養護学校の三つに分かれていました。それらが「特別支援学校」として一本化されたのは、2007年のことです。

特別支援学校には、幼稚部、小学部、中学部、高等部などがあります。つまり、年齢的には4才から18才まで、実に幅広い年齢の子どもが在籍しています。視覚に障害のある子もいれば、聴覚に障害のある子もいます。また、知的な発達が遅れている子もいれば、身体が不自由な子もいます。

それだけに、特別支援学校の教員には、さまざまな個性と能力の子どもたちに、柔軟に対応していく力が求められます。小中学校の先生とは、求められる教育的な技術も違ってきます。

とはいえ、「子どもを育てて、社会へ送り出す」という、教育者としての役割自体に何ら変わりはありません。つまり、「教員としての資質」と「特別支援教育を実施していく能力」の両方が求められるわけです。そのため、特別支援学校の教員免許状を取得するには、小、中、高校のいずれかの教員免許状を基礎資格として持っていなければなりません。

それでは、特別支援学校教員免許状取得までの道のりを見て行きましょう。

まず、最低限必要なのは、「高等学校を卒業していること」です。中卒では原則として教師になれません。ただし、大検(大学入学資格検定)に合格していれば大丈夫。この点は、小学校や中学、高校の教員免許状と同じです。

高校卒業(大検合格)後の道のりは、大きく三つに分かれます。

 ①特別支援学校の免許状が取得できる大学の学部・学科に進学
 ②上記①以外の大学に進学後、他大学へ編入or通信教育課程などで必要な単位を取得
 ③特別支援学校教員資格認定試験に合格

一般的なのは、やはり①です。特別支援学校の免許状が取得できる大学は、以下のとおりです。

特別支援学校教員一種免許状が取得できる大学

特別支援学校教員二種免許状が取得できる大学

特別支援学校教員専修免許状が取得できる大学

(平成21年4月1日現在)

一種免許状の場合、取得できる学校数は163。小学校や中学校、高校よりも少なめです。また、よく見ていくと、私立よりも国立・公立が圧倒的に多いことがわかります。

①以外の大学へ進学した後、ボランティア活動などを通じて、「特別支援学校の教師になりたい!」と思い立った人には、②の道のりがあります。まずは、大学の教務課などに相談して、どうすれば免許状取得に必要な単位がそろうか、確認をするようにしましょう。

また、③の教員資格認定試験は、①②とは全く異なる、いわば「奥の手」です。チャンスは年1回。1次試験が8月末、2次試験が10月下旬に行われ、11月下旬までに合格者が発表されます。難易度は高いですが、合格した人には、一種免許状が授与されます。この点は、二種免許状が授与される小学校と異なる点です。

余談ですが、現状、特別支援学校の教員のすべてが、この免許状を持っているわけではありません。所持率は、平成22年時点で70%。つまり、特別支援学校の教員免許状を持っている人が「足りていない」のです。

そのため、特例措置として、小学校の免許を持っていれば特別支援学校の小学部で、中学校の免許を持っていれば同じく中学部で、教員を務められる制度になっています。

こうして考えると、特別支援学校の教員免許状の付加価値は大きく、採用試験において有利に働く可能性があるかもしれません。

教員免許状取得への道のり(養護教諭編)

カルテを持った女性看護士

教員免許状は、基本的に学校種別に分かれていますが、例外の一つがこの養護教諭です。「養護教諭」というより、「保健室の先生」といったほうが、子どもたちには馴染み深いでしょう。

「保健室の先生」といえば女性をイメージする人が多いですが、決して女性に限定された資格ではありません。最近は、保育士や看護師などの領域への男性の進出も進んでいます。志のある人は、ぜひ目指してみてください。

それでは、養護教諭教員免許状取得までの道のりを見て行きましょう。

まず、最低限必要なこと。それは、「高等学校を卒業していること」です。中卒では原則として教師になれません。ただし、大検(大学入学資格検定)に合格していれば大丈夫。この点は、他の教員免許状と同じです。

高校卒業(大検合格)後の道のりは、大きく二つに分かれます。

①小学校教員養成課程のある大学の学部・学科に進学
②上記①以外の大学に進学後、他大学へ編入or通信教育課程などで必要な単位を取得
③保健師資格を持ち、かつ特定の単位を履修している人が自治体に申請

養護教諭になりたい人の多くは①の道のりを選択します。養護教諭の教員免許状が取れる大学は、以下のとおりです。

養護教諭の一種教員免許状が取得できる大学

養護教諭の二種教員免許状が取得できる大学

養護教諭の専修教員免許状が取得できる大学

(平成21年4月1日現在)

一種免許状が取得できる大学数は、全国で143。小学校や中学校、高校よりも少なめです。また、よく見ていくと、特別支援学校の教員と同じく、私立よりも国立・公立が圧倒的に多いことがわかります。

①以外の大学へ進学した後、突如として「養護教諭になりたい!」と思い立った人には、②の道のりがあります。まずは、大学の教務課などに相談して、どうすれば免許状取得に必要な単位がそろうか、確認をするようにしましょう。

続いて③についてですが、この点については誤解をしている人も多いので、少し説明をしておきます。以前、保健師の資格があれば、養護教諭の二種免許を「申請」だけで取れるという状況がありました。事実、そうして取得した保健師もたくさんにます。

ただ、最近は状況が違います。保健師資格を持つ人が養護教諭の二種免許を取得するうえで、大学で必要な単位を取得している必要があり、以前はそれを証明する書類(履修証明)を出さずとも、申請が通っていました。ところが、それではマズイということで、国が「しっかり、確認するように!」と各自治体に指導するようになったのです。

そのため、保健師が養護教諭の免許状を取得するには、必要な単位を履修していなくてはいけません。そのことを知らず、必要な単位を履修しないまま、保健師と養護教諭の両方の資格を取れると思っている人がいるので、注意が必要です。

教員免許状の取得に必要な単位

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どのような道のりを歩めば教員免許状が取れるかについては、「教員免許状取得への道のり」の記事で、学校種別に見てきました。

もちろん、その道のりを行けば、誰でも教員免許状を取れるわけではありません。それぞれの道のりで、しっかりと必要な「単位」を取っていかなければなりません。例えて言えば、自分が歩んでいった道の木々に成る「実」を一つ一つ、しっかりともぎ取っていくことで、教師の「お墨つき」(免許状)がもらえるのです。

言い換えれば、どの道を通ろうと、必要な実さえそろえれば、お墨つきはもらえます。ある道を通って、必要な実の半分をそろえて、その後数年が経った後に、別の道を通って残り半分の実をそろえてもかまいません。

 すなわち、必要な単位をしっかりとそろえれば、教員免許状は取得できるのです。年齢制限はないので、何歳になっても大丈夫です。ただし、採用試験において、年齢制限を設けている自治体があるので、その点は注意が必要です。

では、具体的にどんな単位をどれだけそろえればよいのでしょうか。小・中・高校の免許状の必要単位数を示したのが、表1です。

表1 教員免許状の取得に必要な単位数(小・中・高校)
    教科に関する科目 教職に関する科目 教科又は教職 その他 合計
小学校教諭   専修 8 41 34 8 91
一種 8 41 10 8 67
二種 4 31 2 8 45
中学校教諭   専修 20 31 32 8 91
一種 20 31 8 8 67
二種 10 21 4 8 43
高等学校教諭  専修 20 23 40 8 91
一種 20 23 16 8 67

  いずれの校種も、専修免許状が91、一種免許状が67となっています。教員養成系の大学では、これだけの単位を6年間もしくは4年間で習得できるよう、カリキュラムが組まれています。

「教科に関する科目」とは、国語なら国語について、社会なら社会について、専門科目の知識を深めるための科目です。中学校や高校の教師は教科担当制ですから、小学校よりもこれが多いのは当然ですね。

一方で「教職に関する科目」は、教師として求められる基本的資質を高めるための科目です。具体的には、教師の役割や職務について知識を深めたり、教育に関する歴史を学んだり、公立学校の制度や仕組みを学んだりします。教科の知識以外の「教師として求められる総合力」を高めるための科目と言ってもよいでしょう。

「教科に関する科目」と「教職に関する科目」は、必要数に上乗せして履修していくことで「教科又は教職」にカウントされます。例えば、小学校の「教科に関する科目」を24単位、「教職に関する科目」を59単位取得すれば、それぞれの上乗せ分が16+18=34単位となり、「教科又は教職」の必要数を満たすことになります。

なお、「その他」は、「日本国憲法」「体育」「外国語コミュニケーション」「情報機器の操作」を各2単位、計8単位です。うっかり落としてしまう人もいるので、注意しましょう。

続いて、特別支援学校の免許状の必要単位数を示したのが表2です。

表2 教員免許状の取得に必要な単位数(特別支援学校)
    特別支援教育の基礎理論に関する科目 特別支援教育領域に関する科目 免許状に定められることとなる特別支援教育領域以外の領域に関する科目 障害のある幼児児童生徒についての教育実習 合計
特別支援学校教諭 専修 2 16 5 3 26
一種 2 16 5 3 26
二種 2 8 3 3 16

必要単位数の合計は16~26。「え?これだけでいいの?」と思う人もいるでしょうが、もちろん、そんなことはありません。特別支援教育の免許状は、基礎資格として小・中・高校の免許状が必要で、これらの単位はプラスアルファで取らねばいけないのです。

続いて、養護教諭の免許状の必要単位数を示したのが表3です。

表3 教員免許状の取得に必要な単位数(養護教諭)
    養護に関する科目 教職に関する科目 護又は教職 合計
養護教諭 専修 28 21 31 80
一種 28 21 7 56
二種 24 14 4 42

 養護教諭は、「教諭」と付く以上は授業も行うことができるわけですが、実際にほとんど教壇に立つことはありません。それなら、養護に関する知識や技能さえあれば事足りるような気もしますが、実際には「教職に関する科目」も、結構な数の単位を習得しなければなりません。

これは、養護教諭の仕事が、学校の教育活動と深く結びついていることの証でもあります。言い換えれば、学校のこと、教育のことをよく理解していないと、決して務まらない仕事なのです。

 

教師という仕事 人気の秘密は?

生徒に勉強を教える女教師

今も昔も変わらず、教師は人気の職業です。ベネッセコーポレーションが実施した調査によると、「高校生のなりたい職業ベスト10」で、「学校の先生」は男子で1位、女子で2位となっています。

ちなみに、女子の1位は、「保育士・幼稚園の先生」ですから、人を育てる仕事、人に教える仕事の人気の高さが伺えます。

一方で、新聞やテレビを見ると、教師の「大変さ」を伝えるニュースも少なくありません。

・保護者からのクレームで若手教師が自殺
・「いじめ」問題で教育委員会が学校を本格調査
・精神疾患で休職する教師が激増

こんなニュースを目にした人も少なくないでしょう。でも、その人気は一向に衰えません。なぜなのでしょう?

先生になりたい人に、その理由を聞くと、

「子どもが好きだから」
「人に教えるのが好きだから」
「恩師に憧れて」

などと答える人が多いようです。また、最近では「安定しているから」と答える人もいます。

確かに、「安定」は魅力の一つです。でも、「安定」だけなら、公務員でもいいですし、他の大手企業でもいいでしょう。やはり、教師を目指す人は、どこか教育に熱い情熱を持っているのだと思います。

大変なのは、どんな仕事も同じです。不手際をすれば責められるのはサラリーマンでも同じですし、精神疾患による休職者が増えているのは教師だけじゃありません。また、どんな業界にも、「モンスター」と呼ばれるようなクレーマーはいます。

教師という仕事の一番の魅力、それは「感動」がたくさんあることです。

・逆上がりのできない子どもができるようになったとき
・普段はやんちゃな子どもが、思いやりを見せたとき
・「先生ありがとう」とお礼を言われたとき
・運動会や校内合唱コンクールなどで、クラス一丸となって優勝したとき
・立派に育った卒業生が会いにきてくれたとき

どうでしょう? こうして見ても、教師という仕事が、いかに感動に満ちた仕事か、お分かりいただけると思います。

もちろん、人相手の仕事ですから、思いどおりにいかないこともあります。でも、そんな苦労を水に流すくらいの感動が、教師という仕事にはたくさんあるのです。

「安定」は教師という仕事の魅力の一つ

baby

景気が悪くなると、民間企業では「リストラ」が行われます。もちろん、うまく転職できれば良いでしょうが、元いた会社よりも良い待遇で再就職できる人は、多くありません。

また、退職を迫られないまでも、子会社に出向させられたり、大幅に給料が下がったりすることもあります。

一方で、公立学校の教師にはリストラがありません。よほど信用を損ねること(飲酒運転で事故を起こしたり、児童生徒にわいせつ行為をしたり…)をしない限り、辞めさせられることもなければ、急に給料が下がることもありません。

最近は「安定」のために資格を取ったり、語学を習得したりする人もいます。でも、資格や語学力があれば、職選びに困らないかといえば、そんなことはありません。

弁護士資格を有していても、事務所に就職できなかったり、仕事がなかったりして、経済的に不安定な人もいます。弁護士がそうなのですから、他の資格は言わずもがなです。

そう考えると、こと「安定」ということに関していえば、公立学校の教師(教育公務員)は、公務員としては特に「最強」の部類と言えるかもしれません。

以前、結婚相手に望む条件として、「安定した経済力」を挙げる女性が増えているというニュースが出ていました。また、結婚できない理由として、「経済的に不安定だから」を挙げる男性も少なくありません。

マイナビニュース 結婚相手に求める条件とは

そう、教師になれば、結婚もしやすくなるし、家庭も持ちやすくなる!…なんて言うと、「そんな理由で教師を選ぶな」と怒られそうですが、幸せな家庭を作ることに重きを置くのなら、教師という仕事は大きなアドバンテージになるはずです。

一方、女性の視点から見ると、育児休業を取りやすいことが、何よりも魅力です。

もちろん、民間企業にも育児休職制度はあります。ただ、会社によっては、取得後の復帰が大変だったり、上司に良い顔をされなかったりすることもあります。そのため、出産を機に退職する人も少なくありません。

一方で、職員室に目をやると、子どもが2人、3人いながらバリバリ働いている女性教師が大勢いることを目にします。その背景には、

・職務的に、教師としての専門的スキルがあれば、スムーズに復帰しやすいこと
・育児休業が最長3年まで取得できること
・育児休業中の給付金が充実していること
・復帰後の「短縮勤務」制度などがあり、子育てがしやすいこと
・女性が多い職場のため、育児休業を取得する「文化」が根付いていること

などの理由があります。このうち、給付金については、休業前の給料の約半分が支給される(八尾坂修監修『教員をめざす人の本』123頁)わけですから、民間の人からすれば大変うらやましい話です。

男性にとっても、女性にとっても、教師という仕事が、安定した生活を送るうえで恵まれていることがお分かりいただけると思います。

教師の給料は民間企業と比べてどうなの?

日本円

教師になろうか、それとも民間企業に行こうか…。そう悩んでいる学生にとって、やはり気になるのがお給料です。教師の給料が、果たして民間よりも「高い」のか「低い」のか。ごく簡単にですが、比較をしてみました。

まず、公立学校の教師ですが、総務省が公表する「平成24年地方公務員給与実態調査結果の概要」によると、小中学校の教師の月の平均給料(諸手当を含む)は40万5,388円です。「そんなにもらえるの!」と驚く大学生がいるかもしれませんが、これは全教員を含めた平均値の話。初任者は、20万円前後です。

一方で、民間企業はというと、国税庁が公表する「民間給与実態統計調査」によると、約34万円(平均年収408万円を12ヵ月で割った金額)。

軍配は教師に上がります。採用試験に合格することの大変さ、人に知識や知恵を教えるという仕事の特性などを考えれば、ある意味で妥当なところかもしれません。

ただ、単純に比較できない部分もあります。まず、教師には残業手当がつきません。その代わりというわけでもありませんが、一律4%の「教職調整手当」が給与額に上乗せされます。平均給料40万5,388円には、この「教職調整手当」が含まれていますが、実際には4%では到底足りないくらい、勤務時間外に明日の授業準備などの仕事をしている教師が多くいるのも現状です。

教師という仕事は、仕事とプライベートの境目があいまいです。勤務時間終了後でも、子どもが何か問題を起こせば、呼び出されることがあります。部活動の顧問になれば、休日も指導に借り出されます。校長先生になれば、地域の行事に呼ばれることも少なくありません。

そう考えると、「アフター5」があって、基本的にONとOFFが明確な民間企業人との給料差(約6万5,000円)は、あってなきものに等しい…と言えるかもしれません。

 

ただ、教師によって、忙しさには差があるのも事実です。月の残業が200時間近い人もいれば、残業がほとんどない人もいます。この差がなぜ出てくるかはあらためて解説しますが、いずれにせよ、教師になるのならば多少の残業は覚悟しておいたほうがよいでしょう。

 

仕事が「忙しい」「大変」と思うか否かは、その人次第です。教師の中には、授業を少しでも面白くするためにと、プライベートの時間を割いて、教材研究に明け暮れる人もいます。

 

それは、「やらされている」のではなく「やりたくてやっている」のであり、その先生にとっては「大変」というより「楽しい」時間にほかなりません。そんなふうに、仕事を「楽しい」と思えるようになれば、残業という意識は薄れることでしょう。

 

教師の12か月

廊下を歩く女性教師とはしゃぐ小学生女子

学校の1年は4月に始まり、3月に終わります。その大まかな流れは、日本の小中学校に通った人なら分かるでしょうが、ここでは「教師目線」で、学校の1年(3学期制)を見ていくことにします。

まずは4月。入学式始業式があります。最初の大仕事は「学級(クラス)開き」。担任として、児童生徒の前に初登場し、メッセージを語ります。特に小学校の場合、ここで何を語るかが、学級づくりを進めていくうえで、とても重要になってきます。さらに、年度最初の授業参観・懇談会があります。保護者への信頼を得るはじめの一歩です。

5月には家庭訪問があります。多い日は1日に7~8軒も回ることがあり、皆さんが想像している以上にハードです。しっかりと道順を調べて回らないといけません。なお、最近は、居間に上がらず、玄関先で終わらせることも多いようです。また、家庭訪問そのものを実施しない学校も増えてきています。

6月は比較的落ち着いた時期。そのため、多くの学校に教育実習生がやってきます。受け入れる側になるとわかりますが、これがなかなか大変です。必要に応じて教育実習生をフォローし、不十分な単元は再授業をすることもあります。

7月には、通知表の作成があります。これが結構ななかなかの大仕事です。30~40人分の成績を間違いなくつけ、所見欄を書くのに悪戦苦闘する先生も少なくありません。

8月は夏休み!と喜びたいところですが、お休みなのは子どもたちだけ。教師は民間企業と同じで、お盆休みがある以外は通常勤務です。研修に参加したり、教材研究に励んだりします。

9~11月にかけては、運動会(体育祭)文化祭(学芸会)などの大きな行事が立て続けにあります。子どもたちにとっては楽しみな行事ですが、裏方の先生方は大変です。他の先生と協力しながら、計画立案や準備に忙殺されます。それ以外にも、校内外における研究発表会など研修の成果を問う時期でもあります。

12月には再び、通知表づくりです。年賀状は書く先生と書かない先生がいますが、書く場合は、差出人住所を学校にするのが最近では一般的なようです。

1月~2月ごろになると、そろそろ教科の進捗状況が気になります。遅れ気味なクラスの先生は、焦りも出始めるころですが、この時期はインフルエンザが流行する時期。学級閉鎖が追い打ちをかけることもあります。

そして3月は、卒業式修了式があります。小6や中3の担任は、卒業準備に追われます。加えて通知表や指導要録の作成もあります。教師にとっては、1年で一番忙しい月です。

こうして見ても、学校には毎月、何らかの行事やイベントがあります。教師は、それら行事・イベントの計画・準備をしつつ、通常授業をするわけですから、なかなか大変です。中学校の場合、部活動の顧問になれば、各種大会やコンクールなども入ってきます。

なお、最近は運動会(体育祭)を5月ごろに開催する学校もあります。これは、9~11月には他にも行事が多く、忙しさを緩和するための措置でもあります。また、2学期制を採用している自治体もありますが、これも教師の負担を減らし、子どもとの時間を増やすための措置と言われています。

教師の多忙さを緩和するための工夫もいろいろと進んでいるようですが、大変なことに変わりはありません。1年間をしっかりと乗り切る「スタミナ」が必要そうですね。

教師の1日(小学校編)

Elementary school students raising hands

教師の1日は、どんな感じなのでしょうか。ある小学校に勤務し、4年生を受け持つA先生の1日を見ていくことにします。

A先生の起床は、午前6時。そうです。教師の朝は早いのです。身だしなみを整えて、食事をして、7時すぎには自宅を出て、自動車で学校へ向かいます。

学校に着くのは午前7時40分頃。もう職員室には数人の先生が来ています。一番早いのは教頭先生で、毎朝7時に来ているそうです。8時前には、ほとんどの先生が顔を揃え、授業の準備などをしています。

8時15分からは職員室での朝の打ち合わせ(朝礼)があり、校長先生や教頭(副校長)先生からの連絡などがあります。その後、子どもたちの待つ教室へと移動します。

先生が「ガラリ」と戸を開けると、騒がしかった子どもたちが一斉に席に付きます(こうなったら、大したものです)。時刻は8時30分。日直の号令とともに、教室での1日が始まります。

最初は朝の会。出欠を取りながら、子どもたちの健康状態を把握します。最近は10分ほど「朝の読書」をする学校も多いようです。

1時間目の授業は8時40分~9時25分。小学校は45分授業、10分の休み時間があって、9時35分から10時20分までが2時間目の授業です。A先生は、休み時間もなるべく子どもたちと過ごすようにしています。

小学校の場合、2時間目と3時間目の間の休み時間は通常よりも長く、20分ほどあります。(地域によって「中休み」「大休み」「業間休み」などさまざまな言い方があります。)職員室に戻る先生も多いですが、A先生は教室や運動場で、子どもたちと一緒に過ごします。

その後、3時間目、4時間目と授業が続きます。空き時間はなく、4時間連続の授業なので、大変です。4時間になると、子どもたちの集中力も切れてくるので、気合を入れ直します。

午前の授業が終わるのは12時20分。ようやく、うれしい給食の時間です。給食係が配膳を済ますと、日直の号令で「いただきます」。もちろん、先生も教室で、子どもたちと一緒に食べます。A先生は班の中に入り、子どもたちの様子をよく観察しながら、クラスの人間関係や一人ひとりの健康状態を把握するそうです。

給食の後は、お昼休み。ここでもA先生は子どもたちと一緒に過ごします。休み時間中にけがをしたり、トラブルを起こす子どもも多いので、その対応に追われることもあります。続いて掃除の時間があり、教室や廊下などで、子どもたちの様子を見守ります。

午後の授業は13時40分から始まり、最終の6時間目が終わるのは15時20分。「帰りの会」で初連絡を行い、子どもたちを帰らせた後、ようやく一息つくのは、だいたい16時前くらいです。

これで1日のお仕事終了!…と言いたいところですが、そうは問屋が卸しません。放課後も、教材のプリントを作ったり、学級通信を作ったり、校務をこなしたりと仕事はたくさんあります。

職員会議や研修会が行われる日もあれば、A先生が所属する教務部の会議が行われる日もあります。一応の退勤時間は16時30分ですが、その時間に帰れることは、まずありません。

夜7時過ぎにようやく学校を後にしたA先生は、8時少し前に帰宅。遅めの夕食をとった後、少しだけテレビを見るなどして過ごした後、10時すぎから書斎へ。1時間ほど子どもの提出物の確認、テストの丸付けなどをします。こうした「持ち帰り仕事」をする先生は少なくありません。

風呂に入って、ようやく布団に入れるのは、深夜0時ごろ。いつもクタクタで、布団に入ると5分もたたないうちに、深い眠りに落ちます。これがA先生の1日です。

こうして見ると、教師という仕事がいかに大変かが分かります。朝は早く、学校ではほとんど気を抜くことができず、帰宅後も仕事に追われる…。常に「教師」として振る舞うことが求められ、自分の時間を持てるのは、夜の1~2時間程度です。この点についてA先生に話を聞くと、意外な言葉が返ってきました。

「慌ただしいですが、忙しいとは思いません。民間企業の中には、これよりもハードな人はいるでしょう。子どもと過ごすのは楽しいし、教材研究や校務も苦痛だと思ったことはなく、むしろどうしたら授業が楽しくなるか、クラスが盛り上がるかといつも考えています。さすがに夜はクタクタになりますが、心地良い疲れといったところですね」

これぞ教師の鏡ですね。